A-aDO2~肺胞と動脈血でPO2が違うのはなんで?~
肺胞の中の酸素分圧(肺胞気酸素分圧:PAO2)の正常値は100mmHgです。一方で肺静脈を流れる動脈血の酸素分圧(動脈血酸素分圧:PaO2)の正常値は90~95mmHgです。
PaO2の正常値はなぜ90~95mmHgなの?という記事で、PaO2の正常値が90~95mmHgになる理由を解説しました。
そこで、肺胞の中にある酸素がそのまま血管に吸収されず、PaO2が100mmHgとなるのは「A-aDO2」という謎の存在があるからだとお話ししました。
A-aDO2のことについては話さなかったので、この記事でA-aDO2について解説していきます。
- 1.A-aDO2って何?
- 2.A-aDO2の正常値
- 3.A-aDO2が存在するワケ①:気管支静脈血
- 4.A-aDO2が存在するワケ②:テベシウス静脈
- 5.A-aDO2が存在するワケ③:肺シャント様血流
1.A-aDO2って何?
A-aDO2とは、「肺胞気動脈血酸素分圧較差」のことです。
漢字だらけで分からないと思うので簡単に説明すると
「肺胞の中の酸素分圧と、動脈血の酸素分圧の差」のことです。
「A」が「肺胞気」、「a」「動脈血」「D」は「違い」を表す英単語「Difference」を表しています。
ちなみに、血液ガス界隈では「アルファベットの大文字が気体、小文字が液体を表す」というルールがあります。覚えておきましょう。
2.A-aDO2の正常値
A-aDO2の正常値は約10mmHgです。
10mmHgより大きいということは、肺胞の中の酸素分圧と、動脈血の酸素分圧の差が大きいということです。
なので、肺胞と毛細血管の間で上手くガス交換が行われていないことになりますね。
肺胞と動脈血でPO2が違うのは、このA-aDO2が存在するからです。
3.A-aDO2が存在するワケ①:気管支静脈血
酸素を受け取る肺静脈には、酸素の豊富な動脈血が流れています。
しかし、肺静脈に気管支を栄養し終えた気管支静脈血が流れ込むので、PO2が5~10mmHg下がるのです。
4.A-aDO2が存在するワケ②:テベシウス静脈
「テベシウス静脈」とは、冠状静脈から心筋を栄養した後の血液の一部が、心臓の内腔に直接流れる、とても小さい血管のことです。
テベシウス静脈の血液は、普通右心房に流れますが、中には左心系に流れるテベシウス静脈もあります。
左心系に静脈血が流れることでPaO2が下がり、肺胞と動脈血でPO2に差ができるのです。
5.A-aDO2が存在するワケ③:肺シャント様血流
いくら健康な人でも、3億個もある肺胞のうち、いくつかは拡張が不十分だったり、血流が悪い部分があります。この部分では、当然ガス交換は不十分になります。
この部分では、肺胞気の酸素を動脈へ受け渡しにくいので、わずかにA-aDO2が生じます。
ここまで紹介してきた3つの原因が合わさって、A-aDO2は10mmHgとなるのです。
①+②+③=10mmHgのA-aDO2
PiO2やPAO2は正常なのに、PaO2が低いときは、A-aDO2が上昇している可能性があると予測できますね。