【体外循環】人工肺の前に熱交換器が来るワケ。
今回は、体外循環で使う人工肺と熱交換器の順序についてのお話をします。
人工肺は、心臓を止める手術をするときに肺の代わりをしてくれるもの。
最近は、この人工肺に熱交換器というものがくっついています。熱交換器というのは、患者の体温を変化させる機械です。手術が始まったら臓器組織の代謝を下げて、酸素の供給量を減らすために低体温にして、手術の終わりには体温を戻します。
ちなみに、人工肺と熱交換器の順序には決まりがあって、人工肺の前に熱交換器を置くことになっています。いったいどうしてなのでしょうか。理由を解説します。
人工肺と熱交換器の順序には「過飽和」という現象が絡んできます。
「過飽和」とは・・・
溶液が、溶解度以上の物質を含んでいる状態
(引用元:過飽和 - Wikipedia)
言葉が難しいですが、この記事で分かりやすく説明します。
1.熱交換器が人工肺の前にある場合(正しい場合)
例えば25℃の血液が人工肺に送られてきたとして、25℃の血液の酸素飽和度を分かりやすく100%としておきます。全てのヘモグロビンが酸素を持っている状態ですね。
まずは熱交換器で25℃から35℃に温めます。すると、酸素飽和度は100%から50%に下がってしまいました(50%というのはあくまでも例です)。液体の温度が上がると気体は溶けにくくなるのです。
でも、熱交換器の後の人工肺では、酸素飽和度50%の血液に見合った酸素が加えられるわけです。人工肺は全てのヘモグロビンのうち半分のヘモグロビンにだけ酸素を与えればいいですよね。
2.人工肺が熱交換器の前にある場合(間違っている場合)
ここでも、25℃の血液が人工肺に送られてきたとして、25℃の血液の酸素飽和度を分かりやすく100%としておきます。全てのヘモグロビンが酸素を持っている状態ですね。
今度は人工肺が前に来るので、酸素飽和度100%の血液に見合った酸素が加えられます。人工肺は全てのヘモグロビンに酸素を与えます。
人工肺のあと熱交換器にかけられ、温度は35℃に上昇します。すると酸素飽和度は100%から50%になりました。
すると、全てのヘモグロビンのうち半分のヘモグロビンしか酸素を持てなくなりますね。
さっきは全てのヘモグロビンが酸素を持てていたのに、酸素飽和度50%になっちゃったので、半分のヘモグロビンは酸素を手放すしかありません。
手放された酸素は気体となって出てきます。
こうして半分の酸素は気体のまま患者さんの体の中に入っていきます。
気体になった酸素が脳に行ってしまうと、患者さんに重度の後遺症が残ることがあります。
そんな事態を防ぐために、熱交換器は人工肺の前についているのです。
ちなみに、熱交換器と人工肺の順序が問題になるのは血液を温めるときだけです。
血液を冷ますときは、熱交換器が人工肺の前に来ようが後ろに来ようが酸素が気体になってしまうことはありません。