PaO2の正常値はなぜ90~95mmHgなの?
学校で「PaO2(動脈血酸素分圧)は90~95mmHg」と習うと思います。
でも、なんでPaO2=90~95mmHgになるか知っていますか?
ここでは、なぜPaO2が90~95mmHgになるのか、4つのステップを踏みながら見ていきましょう。
暗記事項はただ覚えるのではなく、理屈を理解することが大事です。
1.大気中酸素分圧(PO2)の正常値
一般的に、私たちが住む生活圏の大気中の酸素濃度は21%ですね。
大気圧(1気圧)は760mmHgなので、PO2は
PO2=760mmHg×0.21=160mmHgと求められます。
2.吸入気酸素分圧(PiO2)の正常値
「吸入気」というのは、吸い込む空気=気道内の空気のことです。
PiO2はどれくらいでしょうか。
先ほど、大気圧は760mmHgで考えました。
しかし、気道の中は体温で温められているので、気道内に入った大気の一部は水蒸気になってしまうのです。その水蒸気になってしまうのは760mmHg中47mmHg。この47mmHgという数値は決まっているものなので、しっかり覚えておきましょう。
だから、呼吸器界隈での大気圧の計算は、水蒸気になってしまう分の圧力を予め引いて、760-47=713mmHgと計算するのです。
よって、実際に吸う酸素の圧力は
PiO2=(760-47)×0.21=約150mmHg
と求められます。
PO2より10mmHgだけ低くなっていますね。
ちなみに、ここでは酸素濃度として「0.21」をかけましたが、吸入する酸素濃度によって数値は変わってきます。
人工呼吸器をつけている患者さんは、吸入酸素濃度(FiO2)は必ずしも21%とは限りません。
3.肺胞気酸素分圧(PAO2)の正常値
PAO2というのは、肺胞気酸素分圧のこと。口から入って、気道を通って、肺胞に到達した時の酸素分圧のことです。
肺胞内のO2が、肺動脈から急激に排出されるCO2に押されるのと同時に、肺胞気のO2も血液中に溶け込んでいきます。その結果、PAO2はPiO2より低くなってしまうのです。
PAO2は「肺胞気式」という式で求めることができます。
(760-47)×FiO2というのは、先ほど求めたPiO2ですね。
PaCO2/0.8というのは、肺胞から血液へと溶け込んでいく酸素分圧のことです。
「0.8」は呼吸商といいます。
※呼吸商・・・生成されたCO2量をO2量で割ったもの
呼吸商でPCO2を割れば、PCO2をPO2に換算することができます。
FiO2=21%だとすると、PaCO2の正常値は40mmHgなので、
PAO2=(760-47)×0.21-40/0.8=100mmHg
となります。
4.PaO2の正常値
結論から言うと、PaO2の正常値は90~95mmHgです。普通に考えれば、肺胞の中にある酸素がそのまま血管に吸収されるはずなので、PaO2も100mmHgとなるはずです。
なぜPAO2と差が出てくるのでしょうか。
実は、肺胞→血管の間には、ガス交換に関わらない「A-aDO2」という部分が存在します。
そのため、PaO2はPAO2より数mmHg小さい90~95mmHgとなるのです。
なので、100mmHgの酸素分圧全てが移動するわけではありません。
A-aDO2についてはまた別の記事で紹介しますね。