心電図波形・ST部分のトリビア~ST上昇とST下降~
今回は、心電図波形のうちST部分を細かく見てみます。
- 正常なST部分の条件
- 異常なST部分(ST下降・ST上昇)の原理
について解説します。
1.正常なST部分
ST部分とは、S波とT波の間にある直線部分です。
正常とされるST部分は、基線から上下0.1mV(1マス)未満です。
「基線」とは、心臓のどの部分も興奮していないことを表す、起点となる線のこと。
2.異常なST部分
〇ST下降(狭心症)
ST下降は、冠動脈にプラークができ、血流が悪くなることから起こります。
どういう原理になっているのでしょうか。
①冠動脈に小さいプラークができる
②プラークができた先の冠動脈の血流が悪くなる
③心筋への栄養供給の一部ができなくなる
④心筋の内側が炎症を起こし始める
⑤炎症部の電位が高くなり、心筋の内側から外側へ電流が流れる
ちなみに、心筋の内側から外側へと流れる電流のことを「障害電流」といいます。
⑥心電図モニタが障害電流を読み取り、心電図の基線が上がる
心電図には、「心電図電極に近づく電流は上向き、遠ざかる電流は下向きに表示される」という決まりがあります。
そのため、常に障害電流を読み取るようになった電極は、近づいてくる障害電流を基準にしようとするのです。その結果、基線が元より上がります。
ST部分だけ基線が上がっていないのはなぜでしょうか。
実はST部分は「不応期」と呼ばれ、どんな電流にも心筋が反応しない時期なのです。
そのため、ST部分は障害電流の影響を受けません。
結果、ST部分だけが下がったように見えることから「ST下降」という現象が起こります。
〇ST上昇(心筋梗塞)
ST上昇は、冠動脈にプラークができて血流が遮断されることから起こります。
①冠動脈にプラークができる
ST下降の時とは違って、今度は冠動脈が完全にプラークによって閉塞されてしまいます。
②プラークができた先の冠動脈の血流が途絶える
③冠動脈が閉塞した部分だけ、心筋への栄養供給ができなくなる
④炎症が心筋の内側から外側まで全体に広がる
⑤障害電流が、炎症を起こしていない左右へ広がる
⑥心電図モニタが障害電流を読み取り、心電図の基線が下がる
心電図には、「心電図電極に近づく電流は上向き、遠ざかる電流は下向きに表示される」という決まりがあります。
そのため、常に障害電流を読み取るようになった電極は、ST下降とは違って左右へ遠ざかる障害電流を基準にしようとするのです。その結果、基線が元より下がります。
ST部分だけ基線が下がっていないのは、ST部分が「不応期」と呼ばれ、障害電流の影響を受けないからです。
結果、ST部分だけが上がったように見えることから「ST上昇」という現象が起こります。